自在鉤は種類が多いので独立ページに移しました。
■自在鉤 じざいかぎ---------------------------------------------------------------------------------------
自在鉤は鍋や湯釜などを吊るし、高さを変えることで火力調整のできる優れた囲炉裏道具です。
また、五徳を使わないことで火元に障害物がなくなり、薪をくべやすくする働きもあります。
代表的な囲炉裏道具と思われますが、実際には使われないことも多く、必ずしも必要な道具ではありません。
世界遺産白川郷や、かやぶきの里京都府美山集落の囲炉裏にはほとんど自在鉤は存在しません。
その代わりに種々の大きな五徳(金輪)が多く見られます。
囲炉裏はその地域独自で進化してきたものなので、地域色が強いのです。
「自在鉤を使う」、「五徳を使う」、「併用する」の3つに分かれるようです。
構造としては固定された「吊り棒」と上下する「鉤棒」でスライドさせるタイプと折り返した縄の長さで調整するものの2種類が代表的です。
東北地方では波型の木製のもの(下記参照)が多くありますが、さまざまな方法が考えられるので、いくつもの種類があったと思われます。
装飾は縁起をかついだお目出度いものが多いです。
魚(水)は火を鎮めるなどの意味もあるようでよく使われますが、実際には横長の形状で作りやすく囲炉裏で焼く魚のイメージがあるためではないかと思います。
鉤(鈎) かぎ
鍋をかける部分を鉤と言います。
現存する鉤の多くが金属製ですが、
昔は容易に入手できる木製のものも多かったと思います。
横木 よこぎ
横方向の材で鉤棒を支えるものを「横木」と言います。
扇や魚形など多種あります。
中通し式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
代表的な自在鉤で、筒(吊り棒)の中に上下する細い棒(鉤棒)を通してあります。
写真は昔のものですが現在販売されているものも多種あります。
囲炉裏らしさを表現しやすく、飲食店の装飾としてもよく使われます。
竹、木筒、鉄、真鍮、縄などさまざまな材料で作られています。
鍋をかけると魚(横木)の頭が下がり尻尾が上がって
魚と縦棒の摩擦でストップする仕組みです。
そのため鍋を下ろさないと高さ調整ができません。
荷重を支えるのは魚とロープ
自在鉤にかかる重量は大鍋などを使うと10kg以上にもなります。
上の写真の自在鉤では、この重量が「魚」と「ロープ」にほぼ100%かかります。
棒の中央部(魚の頭から上)は荷重がバイパスされるのです。
安全に使用するため、使用する自在鉤はロープと魚の部分の強度をよく確かめる必要があります。
特に竹が割れたり、綱が切れたりしやすいので、鉄鍋の熱湯が大変危険なものとなります。
横木は「鯛」「鯉」「一の字」「扇子」など
お目出度い物が多いです。
ちょっと愛嬌のある鯛の横木です。
(尻尾にかけてあったはずの縄がはずれています)
真鍮製の自在鉤は戦後に作られたものです。
鋳物で華やかな形状に作られています。
飛行機とパラシュートなど楽しいものもあります。
(岩手県遠野市、水光園所蔵)
魚と、なぜか大砲です。その時代の象徴でしょうか。
(北海道 旧余市福原漁場 上座の囲炉裏)
↑北海道の商家のもの 商家の自在鉤は華やかなものが多いです。
スライド式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
原理は中通し式と同じですが、2本の棒が平行に並んでいます。
鉄製が主ですが木製(角材)もあります。
鉄製のものは農具や生活用具などなんでも作る、いわゆる村の鍛冶屋さんが作ったもので、
手仕事の自由さを活かした面白いデザインのものが沢山あります。
一家の主も独自のものをオーダーして、鍛冶屋さんもいろいろと楽しんで作っていたように思います。
鉄製
全て鍛冶屋さんの手作り
↑岐阜県 吉島家住宅の囲炉裏の自在鉤
↓香川県高松市 旧中石家住宅
鍛冶で作られたかわいらしい魚です
↓香川県高松市 旧中石家住宅 隠居屋
木製(角材)
デザインは無数にあり、鍛冶屋さんの遊びごころを感じます。
鉤(かぎ)の部分もさまざま
当店のスライド式自在鉤
販売中
縄掛け式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最もシンプルな構造で自在鉤としての調整機能を果たします。
下部の鉤に重みがかかることで、縄がしっかり止まります。
←石川県 喜多家住宅の囲炉裏
←北海道の鰊(ニシン)御殿のもの。
たぶん鰊?だと思います。
←北海道 鰊御殿のもの
←当店の阿吽(あうん)の鮭 自在鉤
囲炉裏本舗製品 写真は旧タイプ
金沢市 老舗記念館「中屋薬舗」の扇形
波形 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※固有名称があると思いますが不明です。
東北地方特有の囲炉裏の自在鉤で、木を波形にカットして作られています。
全てを木製とすることもでき、鍛冶が不要なので自家製のものが多く普及したと思います。
東北地方では白川郷のような大きな五徳(金輪)を使う習慣がなく、大家族の南部曲り家などでは重い大鍋を使う必要があり、
より頑丈で確実に止るこのタイプが普及したのではないかと思います。
←鉄棒を使用したものもあります
その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
チェーンとターンバックルの自在鉤
ホームセンターの建築資材で作ったものです。
耐熱塗料で黒く着色しています。
高さが自由に変われば自在鉤として機能しますから、
他にも様々な方法があると思います。
自作するのも楽しいと思います。
■ 空 鉤 そらかぎ-------------------------------------------------------------------------------------------
空鉤は北陸地方で独特の形状のものが見られます。
縄を掛けるだけで機能的な意味合いは少なく装飾的なものです。
どうしてここまで大きく象徴的、装飾的になったのかわかりませんが、守り神が宿るなどの迷信的なものがあるようです。
※文献などご存知の方、是非ご一報ください。
←石川県 喜多家住宅
←北海道 小樽市鰊御殿のもの
←岐阜県 松本家住宅
←北海道 浜益鰊御殿
←東北地方の空鉤
石川県 旅館 さか本の空鈎
金沢市 老舗記念館「中屋薬舗」の空鈎
←北海道 旧下ヨイチ運上家
運上家の上座、下座の2つの囲炉裏には巨大な空鉤があります。
写真左は全長3m以上もある巨大空鉤です。
※囲炉裏の道具は発見次第、随時追加してまいります。まだまだあると思います。
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