2006年04月25日

囲炉裏の設計 9  火棚

火棚(ひだな)  火天:ひあま 小天:こあま とも言われます
火棚は「薪」を使う囲炉裏の上部に吊られます
薪を燃料とする農家や漁家に多く見られ、木炭を使用する富裕層の囲炉裏には、
必要性がなく存在しません。
もちろん豪商の囲炉裏には火棚がありません。

現在の囲炉裏においても、「薪」を使って部屋中に煙を拡散させる必要がなければ、
火棚の必要性はありませんので、あくまでも装飾品としてお考えください。
唯一の機能としては照明器具を仕込んで明かりをとることくらいです。
木炭を用いる囲炉裏に吊られている場合は、主目的を装飾品として、近年に作られたものです。



■火棚の目的 1〜4
ここでご紹介する火棚は装飾目的ではなく実用的に使われていたものです。

1 熱・煙の拡散
炎の熱は一気に上階に達してしまうため、囲炉裏のある1階には暖かさが残りにくいのです。
火棚を設けると気流が乱れて、熱気が拡散するとともに1階部分での滞留時間が長くなります。
これは思いのほか効果的で実際に体験してみると煙の流れがよく見えて、効果を実感できます。
また、拡散した熱と煙を均等に上階に伝える働きもあります。
煙の拡散は木材や茅葺の保存にも役立ちます。
火棚の煙.jpg
写真ではわかりにくいですが、
上昇気流が乱れて熱が滞留しています。





↓白川郷の火棚(和田家の囲炉裏)
火だな1.jpg火だな3.jpg







白川郷では「火天:ひあま」と呼びます。白川郷の火棚は各家どれを見てもほぼ同じ形状です。
熱や煙を拡散させるため、格子状ではなく板張りになっています。
煙のヤニでベタベタになっています。

排煙 白川.jpg合掌造最上階.jpg







火棚の上は上階へ煙が抜けるよう格子になっていて、拡散された熱と煙がゆっくりと上昇していきます。
上階は養蚕の場として使っているため、白川郷では囲炉裏の熱の拡散が特に重要だったのです。



2 防火
上昇気流で舞い上がる火の粉が一気に茅葺にまで達することを防ぐ働きもあります。
代々受け継ぐ茅葺の家にとって火災ほど恐ろしいものはないのです。
民家集落1.jpg









3 乾燥
火棚に手袋やワラジなどを吊り下げ乾燥の場として使います。
火棚 04火棚 03
←北海道 鰊御殿の火棚
乾燥能力はかなり乏しいと思いますが
雪の日は外部に干せず仕方なかったのでしょう。




鰊御殿の火棚はどれも格子状で、板が張られていません。
上階には養蚕の場もなく、一部に2階がある程度で、上階への熱や煙の拡散を重視していなかったようです。
白川郷の火棚のように板張りにした方が、北海道の厳しい寒さを少しでも防げたように思うのですが、火棚はもっぱら乾燥棚として使われています。
鰊漁の盛んな明治・大正時代に、白川郷を訪れる人などほとんどいなかったでしょうから、熱の拡散効果を知らなかったのかもしれません。
また、鰊御殿は瓦屋根で萱を使っていないことも理由の一つかと思います。



4 食品の保存
魚や穀物など食品を乾燥・燻煙して保存する棚としても使われていました。
魚は主に出汁用です。
火棚 02弁慶2















各地の火棚--------------------------------------------------------------------------------------

東北地方(南部曲り家)の火棚
火棚1火棚2








地方により形状や構造も様々で、竹製の火棚もあります。
火だな4.jpg火だな5.jpg火だな6.jpg








北海道の火棚
火棚 01火棚 05火棚 06














綱のかけ方は地方色がなく、決まったものはありません。
火棚 21火棚 22








火棚 23火棚 24火棚 24









東北や北陸方面のもの(←左)は綱を斜めにかけていることが多いのですが、
北海道の鰊御殿の火棚(右→)は私が知る6軒全て上から直線的に吊るされています。
たぶん上階がなく、天井高が高いので斜めにかけにくい?ためと思います。
火だな2.jpg火棚 10













 
火棚 02
火棚の綱 こちらで販売中








 
 

装飾としての火棚--------------------------------------------------------------------------------------

現在は煙の拡散や衣類の乾燥の必要性がありませんので、主に装飾品として火棚が設けられます。
機能としては、照明や換気扇を仕込んだものがあります。

囲炉裏01火棚
京都府 小林様宅の火棚












火棚
囲炉裏のある家を建築される
大阪エクセルホームさん製作の火棚

旧家に合わせた火棚で、昔からあったかのような意匠です。




火棚
景勝館という旅館の囲炉裏の火棚







火棚モダンなデザインの美しい、進化した現代の火棚です。
照明の他、格子の内部に換気扇も仕込まれています。
単に装飾品ではない機能美が素晴らしいです。

千葉県松戸市 Y邸の囲炉裏
設計:物人設計室様



 
ほたる囲炉裏01囲炉裏との調和の美しい火棚です。
照明器具が仕込まれていています。

山江温泉「ほたる」様の囲炉裏
設計:T&Sデザインパートナーズ様
施工:久保田工務店様



囲炉裏 火棚火棚

大阪市北区 M邸の火棚です
設計・施工:囲炉裏テーブル、火棚共に当店の製品です。

詳細はこちら









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Posted by field5392 at 10:35│TrackBack(0)

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